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特集ワールド 毎日新聞9月19日(夕刊)
≪ 天川村で仙人に会った ≫
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スピリチュアル・ブームだという。日常で「オーラ」という言葉が自然に語られ、かつてのまがまがしさは感じられない。このえたいの知れないモノは、何なのか。強い「気」が宿るとされ、芸術家や宗教家が通う隠れ里、奈良県天川村を訪ねた。
【藤原章生、写真も】
体験『スピリチュアル』
10年ほど前まで、超常現象に関する本は本屋の「精神世界」などと銘打たれたコーナーに並んでいた。だが今は、占い本と合わせて、最も目立つ場所に平積みされる。ブームは日本に限らない。欧州や米大陸、アジア、アフリカでも同じだ。
「日本では大正時代に大ブームがあった。霊信仰は神道を信じる日本人に連綿と受け継がれるもので、戦後、米国の影響などで一時的に沈んでいただけ」と思想家の(たつる)・神戸女学院大教授は話す。ブームではなく、日本の素の姿が再び表に出てきたという見方だ。
でも、オーラとは、気とは何だろう。精神世界に詳しい大阪府豊能町の書道家、小林芙蓉さん(64)を訪ねた。小林さんは20年ほど前から、病や悩みを抱えて集まった人たちに、「気を操り、その人を開かせることで助けてきた」と言う。小林さんによれば、気もオーラも根にあるのは「いわば宇宙に漂う、測ることのできないエネルギー」だ。ただ、計測不能とはいえ、小林さんが取る写真にフラッシュなど及ばない強い光が見えることがよくあるという。
その光は何なのか、理解できない。そういうと「では、天川に行きましょう」と小林さんは、かつて修行を積んだ天川村に案内してくれた。
芸術家が訪れる奈良の隠れ里
大阪から車で3時間、つづら折の道になり、私たちは霧のたちこめる杉林にいた。険しい峰々に囲まれた天川村を流れる天ノ川は下流で熊野川に合流し熊野灘へと流れ込む。
「ほんとうにいい気が満ちているでしょ」小林さんは言うが、私は村に着くなり、とにかく眠くなった。この吸い込まれるような眠気は以前、キューバで取材した土着宗教サンテリアの儀式に似ていて、鶏をいけにえにするところで眠り込んだ。今回も天河大弁財天社(天河神社)の禰宜(ねぎ)、柿坂匡孝さん(40)の話を聞きながら、眠り込んでしまった。
柿坂さんは「気も霊的エネルギーも同じで、これほどの気に包まれると多くの人が眠くなる。気は自然が放つもので、心地よさや胸騒ぎ、癒しをもたらす。1300年前から霊場だった天川には、かつての高僧のように、今も才気あふれる人々が訪れる。」と話す。「芸能の神」としても知られる同神社には実際、著名な映画監督や音楽家たちが参拝する。
柿坂さんが弁財天で見事な祝詞をあげた時、奇妙なことがあった。上を見てはいけないというので、足元の階段の木目を眺めていると、そこに群青色のガスが漂っている錯覚があったのだ。それを伝えると、小林さんと柿坂さんは「水の神、弁財天ですよ。歓迎されたんですよ」と目を輝かせるが、どうも納得できない。
天川村には弁財天と並び日本山岳信仰の総本山「大峰蛇之倉七尾山」という修験道場があり、常時数十人が修行する。「昭和の仙人」と呼ばれる行者、山口神直さん(77)が迎えてくれた。小林さんが6年ほど前、原因不明の心臓発作に何度も襲われた時、山口さんに救われたという。
「平和願い祈り続けてほしい」
「私は仙人と言われますが、日本中を歩いた天下の大こじきです」。山口さんは、小さく細い体を白装束に包み、山水画の仙人のような長く白いあごひげをたくわえている。
1929年(昭和4)年に生まれ、16歳で学徒動員され、東京で終戦を迎えた。東京や名古屋で大空襲に遭ったのが行者になるきっかけ。「小さい子が死んだ母親のおっぱいに食らいついていて、そこに首のとれたお父ちゃんの手が伸びている。東京は血の海ですわ。だから、私は、神さんを見つけて、談判してやろう思ってね。『なんでこんなことする』と」。
戦後間もないころ、出身地の天川に帰ろうと東京から鈍行列車に乗った時、光る山を目にする。奥秩父の瑞牆山(みずがきやま)だ。「あそこの神さんに愚痴をこぼしたい、と登っていって」。頂上の岩座(いわくら)に丸3年座り込んだ。
「岩に生えるこけだけ食べて3年。そりゃ苦しくて、神さんは出てこんし。それで、岩の上から飛び降りようとしたんです。はよう死にたいと。ところがそのたびに、ドーッと風が吹いて岩の上に戻される。人間、いちばん苦しいのは死ねないことです」
山口さんは19歳で瑞牆山を下り、青森から山口まで山の際を歩いた。「行と言えば行、無法歩きといえば無法歩き。そして、最後に故郷にもどり、長く閉じられていた洞くつを開いたんです」。山岳信仰、修験道の開祖、役行者小角(えんのぎょうじゃおづぬ)が霊地と定めた地、天川村の洞川(どろがわ)である。
信者は全国に約10万人。役員だけでも2000人もいる。85年から天川に通う漫画家で「ガラスの仮面」の作者、美内すずえさん(55)はこう語る。「一見、普通のおじいちゃんでしょ。でも、現代の役行者だと思っています。終戦直後から国や人類の行く末を案じ、各地の霊場を開き、祈り続けた姿に頭が下がります」。60年代ごろまでは、右翼の大物や著名な政治家が通い詰めたそうだ。
今の世の中について山口さんは「祈りが足りない」と嘆く。「念仏でも何でも、どのような祈りでもいいのです。祈りは生を受けた者の恩返し、税金みたいなもので、自分の利益のためじゃない。生きている者、自然界のために祈るのです。平和を願い祈り続けて欲しい」。祈れば、気やエネルギーを感じられるのだろうか。「一人一人出方や感じ方は違いますから、一概に言えませんが。まあ、あなたも何年か修行を積んだらどうですか」と、高笑いしてみせた。
不思議なことがあった。会見の場には山口さんと小林さん、私の3人だけだったが、改めて録音を聞くと何ヵ所にも複数の男たちの太い笑い声が入っていた。エコーのかかった低音だったり、高音だったり。笑う場面でもないのに、高笑いが響く。
美内さんに聞くと「よくあるみたいです。見えない存在が先生の話を聞きに来ているんじゃないですか」。そう言われてみると、白装束の男性が何人かあいさつもなく部屋に来て、いつの間にかいなくなっていたような気もする。気のせいだろうか。いや・・・。
心や精神広くさす「スピリチュアル」
元来、キリスト教徒が霊性、精神性という意味で使ってきたが、90年代ごろから、自己啓発、癒やし、めい想など、心や精神を扱う分野を広くさす言葉として定着しつつある。特定の宗教に属さないが、気やオーラ、波動などを信じ、それが日常生活に平安をもたらすと考える各界、各層の人々に受け入れられている。ブームを代表する人に、霊を見ることができるという江原啓之氏や、学術的に究めようとする中沢新一氏らがいる

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